「料亭のおかみが本を書くなんて−」と思っていた私が、喜寿の年にこの本を出すことができました。
夫・濱口八郎と結婚してからの出来事や「濱長」開店以来のお客さまとの思い出などを収めたこの『おかみの日記』は、平成三年十二月から約半年間、高知新聞の月曜朝刊に連載したものに少し書き加え一冊にまとめました。
連載中から、店にお見えになるお客さまをはじめ大勢の方に「もっと書きや」「書き終わったら本にしいよ」と声をかけていただき、おかげさまでやっと実現することができました。こうして一冊の本にしてみますと、苦しかったこと、楽しかったことなど、さまざまな思い出が改めて新鮮によみがえってまいります。
料亭のお客さまは年とともに変化してまいりました。かつては純粋にお遊びになるお客さまが多かったのですが、最近は会議後の懇親会や商談などに利用されることが多くなってきました。しかし、料亭の在りようがどう変わっても、私どもが忘れてならないのは、おもてなしをする真心だと思います。料亭ではお客さまに料理を召し上がっていただきますが、本当に大切なのは、形として目に見える「物」ではなく「心」だと、私はいつも店の者に申しております。
私にとって、お客さまとの思い出、触れ合いの一つ一つが何物にも代えがたい財産なのです。喜寿を迎え、おかみとしての役目もそろそろ終わりに近づいたいま、それを書かせていただくことができて、これに過ぎる喜びはございません。
出版に当たっては、巻頭に高知商工会議所会頭の吉村眞一さま、私ども夫婦と切っても切れぬご縁だった故・塩見俊二先生の奥様の言葉を頂戴しました。また、四国銀行頭取の濱田耕一さまをはじめ、それぞれゆかりの方々にも思いでを綴っていただきました。ともに厚くお礼を申し上げます。
最後に、高知新聞の連載から出版までご苦労をおかけした高知新聞社、高知新聞企業出版部のみなさま方、とりわけお世話になった編集局の小松信さまに心から感謝申し上げます。
平成四年十二月二十五日 |